熊さんの「禅問答みたい。わたしのオツムが破壊してしまいそう」に思わず50数年前のある日のことをおもいだした。
今を去る半世紀前。高分子学科の放課後のこと。黒板をまえに熊さんと私を含む4人くらいがいた。たぶん青木君か西原君か橋本君だったとおもうが思い出せない。三宅先生の高分子統計力学のテストのすぐあとだった。三宅先生の問題は2問で、熊さんが模範回答を黒板にチョークですらすらと書いたのだ。わたしは、当時すっかり高分子学の勉強に関心を失って野口先生の有機化学の試験も落ちてばかりいたので、熊さんの名答ぶりに驚嘆し、まさに「禅問答みたい。わたしのオツムが破壊してしまいそう」と思ったものだ。いらい熊さんの頭脳明晰ぶりにはずっとコンプレックスをもっているのだよ。この三宅先生の問題のうち2問目は、たまたま私の持参した参考書に幸運にも全く同じ問題と解答がのっていて、その僥倖に大喜びしたことを昨日のことのように覚えている。試験の合否は、一階の学生のロッカーがあったところに張りだされたが、当時、優秀なので有名だった国兼さんとならんで学業トップクラスのA君が「猪坂がなんで合格したのか不思議だ」としきりに言っていた。わたしは昨日食ったものを思い出せないが、昔のことは案外よく記憶に残るタイプ。ごくごく断片的などうでもいいことばっかり覚えている。
2講座に入ってまもなくのころに橋本君がムーア『物理化学』を上下二冊とも非常に面白く精読したといっていたので頭のいいひとはうらやましいなあと思ったものだ。
ついでにいうと中川先生が、有機化学の追試追試でみんなが苦労していることに同情してくれたが、「中川先生は東大の学生のときに野口先生のような教師の試験で苦労しなかったのですか?」と愚問をわたしが発したら、本の名前は忘れたがドイツ語の有名な有機化学の教科書を「ボクは学生の時にぜんぶ翻訳してノートに浄書しました」とさりげなく言うので、頭のいいひとはちがうなあと感嘆したものだ。
先日、女房が本が邪魔だ、まったく読まない古い本はもう捨てろというので、緑色の白水社のラッシブルク『統計力学』、ポーリング『化学結合論』、スレーターフランク『理論物理学入門』、フローリ『高分子化学』、鮫島実三郎『物理化学実験法』、あとは岡小天と山本三三三の高分子学の本など十冊くらい捨てたがなんとなく淋しかった。本を開いて読んでもないくせに。(東京都立大学の山本先生が出張講義にきたこともあった。)
いすず書房の中川鶴太郎・神戸博太郎『レオロジー』はぜんぜん勉強してないくせに捨てられなかった。2講座で輪講した青っぽい小冊子だが英語のフェルミ『熱力学』はまだとってある。
野口先生もわたしや◎◎君がちっとも合格しないので業を煮やしたのか、出題の範囲が狭まってきた。わたしはビタミンCかセルロースの構造決定法を丸暗記していって、どっちがでたか忘れたが、山があたって見事に8回目くらいで合格した。
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