津村節子と吉村昭は夫婦作家である。
吉村昭の闘病と臨終のときのことを『紅梅』に津村節子が書いている。吉村が息を引き取るときに「あなたは世界で最高の作家よ!」と叫ぶシーンがあり、妻が自分の夫の死に際にそんなことを叫ぶものかなあと内心思ったことがあった。
ところが知人から借りた津村節子『果てなき便り』を読んだら、電話をかける十円玉もなかったくらい貧乏しながら、若いときから励まし合い助け合い身を刻むように小説を書いてきた夫婦の歩んだ道を、遺っていたふたりの手紙を紹介しながら綴っている。これほどの夫婦の仲なら、こころから敬愛していた夫の臨終で妻があのように叫んだ気持ちがよくわかった。
吉村作品はほとんど読んだ気がする。代表作といわれる『戦艦武蔵』など戦史もの。『神々の沈黙』など医学もの。『羆嵐』などの害獣もの。『島抜け』など漂流もの。なかでも好きなのは『長英逃亡』や『桜田門外ノ変』などの幕末の逃亡ものかもしれない。綿密な調査をもとに万年筆のペン先からしぼりだすような淡々とした筆致。尾崎放哉の『海も暮れきる』、明治初期に北海道の原野開拓に酷使された囚人たちを描いた『赤い人』も忘れがたい。
吉村には小説を書き出したころ、死体の骨などに執着する『星への旅』など意外な短篇集もある。しかし『戦艦武蔵』によってあの記録文学の作風を確立し生涯離れることがなかった。やはり私にとっても「世界で最高の作家」なのだ。
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