2016年8月7日日曜日

五十年ぶりの帰郷

『帰郷』 西沢昭裕

    十数年つきあった高橋さんが九州の故郷に帰ることになった。長年、おんぼろ貸家でひとりぐらしだったが、故郷の町営住宅にやっと入れることになったのである。きょう、軽トラでテレビ、冷蔵庫、洗濯機の処分をしてあげた。いまの貸家に引っ越してきて一度も掃除をしたことがないという。綺麗好きなひとがみたら気絶しそうなゴミの山。夏だというのにコタツで寝ていて缶ビールの空き缶、タバコの吸い殻がコタツの上に山になっている。それでも毎日風呂に入ってヒゲだけはちゃんと剃ると自慢している。私も手伝って市の大きなゴミ袋で毎朝ゴミステーションに根気よく捨てて、全部捨てきる見込みがついたのでお盆前に故郷に出発するとのこと。
 高橋さんというのはむろん仮名だが九州のある工業高校をでて大手電機メーカーに入社、ラグビー部で活躍したこともあった。写真をみせてもらったが美人の奥さんと職場結婚した頃が瞬間的に一番幸せだったという。ところが奥さんがカルト宗教のエホバの証人の熱心な信者だと知らずに夫婦になってしまったのである。職場での布教に行き詰まり夫にも入信を拒否された奥さんが自殺。高橋さんも会社に居づらくなり退職し、いろんな職業を転々。
 高橋さんは人を疑うことを知らない性格で退職金や生命保険金も悪いやつらにだましとられてしまい、わずかの年金で質素に暮らすうち天涯孤独の七〇代なかばになってしまったのである。
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 五〇年ぶりに故郷の親戚や同級生に会っても俺のこと覚えてるかなあとしきりに心配していた。
もう会うことはなさそうだがお互い元気で・・・と高橋さんと握手して別れた。

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